12月3週
【推移】
14日(月):
年の瀬の荒れた相場。先週の日経平均株価は5日間毎日3ケタの値動きだった。前々週末の金曜も435円安だったから6日連続3ケタ。そして週間では274円の下落。週足では2週連続で陰線を形成。
SQ値は18943円で着地し、金曜時点(終値19230円)では下に「幻のSQ値」。しかし週末のシカゴ225先物の終値は18680円で急転直下「上」に幻になった。「昨年はSQ(12月12日)の翌週、16日(火)が安値(16755円)。そこから12月24日の17854円まで1週間で1100円上げてほぼ年末高で終了という声も聞かれる。
先週の大和のレポートは「米国の利上げ開始は日本株にポジティブ」。中長期的には、米国で利上げが始められるほどの景況の改善は、日本株にはポジティブに働いたことが多い。過去の米国の利上げ局面は、総じて日本株高の場面と重なっている。今回と類似性が高いのは1994年や1997年の利上げ開始場面だ。
日経平均が警戒感などを受けて事前に21000円水準から16000円水準まで下落するなど、株価の動きが良く似ており参考となる。この場面では、利上げ開始の前後から日本株は上昇基調となり、日経平均はほどなく20000円水準を回復していた。この日本株の動きは、利上げ前後から米国株が波乱含みの展開となっても大きな影響は見られない。
一方、為替市場では事前に進んだ円安/ドル安が一巡して、利上げの前後からは円高推移となった。米国で利上げが開始されるならば、日本株にとってはポジティブなサインといえる中で、株式物色面では為替の円高の影響を受けにくい内需関連銘柄が当面は優位になりやすいと考えられよう。
日経平均株価は347円安の18883円と続落。大林組、くらが上昇。鉄、東洋炭素が下落。寄り前に発表された「日銀短観」。大企業製造業DIは12で横ばいだった。話題になったのは高利回りの低格付け社債(ハイイールド債)を運用していたヘッジファンド。
「サード・アベニュー・フォーカスド・クレジット・ファンド」が償還不能・清算に追い込まれたという話だった。
15日(火):
株式市場には演出効果は結構ある。特にネガな記憶を呼びさましてくれる小道具には事欠かない世界。例えばエネルギー関連のハイイールド債やジャンクボンドに投資していたサード・アベニューというファンドの破たん劇。
運用資産は959億円程度だから、たいした規模ではないが2007年夏のパリバショックを多分に連想させてくれた。そして大袈裟にもその1年後に起こったリーマンショックまでをも思い起こさせてくれる演出。相場は記憶の延長線上に存在し、相場は推論の積分で存在していますから、当然なのかも知れない。
日経平均株価は寄り付きこそほぼ変わらずだったがじり安展開で317円安。値下がり銘柄1683で全面安の展開。その中で目立った新興市場のストップ高銘柄。重箱の隅をつついてみれば日経平均株価は25日移動平均からマイナス5.3%のかい離。騰落レシオは82.69%まで低下。
松井証券信用評価損益率速報で売り方マイナス8.062%。買い方マイナス10.143%と逆転した。空売り比率は40.0%。今年のレコード43.4%に近づいた。日経平均採用銘柄のPERは14.67倍でEPSは1265円。昨年は12月メジャーSQ翌週の火曜を底に反発連騰し日経平均は1000円高。歴史は繰り返しそうな気配も漂ってきた。
日経平均株価は317円安の18585円と続落。TASAKI、アイスタイルが上昇。任天堂、アルプスが下落。
16日(水):
今週の安部首相の行動と発言は結構興味深い。月曜も火曜も防衛次官と会っている。火曜は防衛政策局長、整備計画局長も同席しており、中身はキナ臭いものではなく沖縄基地問題だろう。ただ国家安全保障局長、情報官、公安調査庁次長もあっており多少はなにかあるのかも知れない。
一昨夜は公邸でキッコーマンの名誉会長、ソニー社長、JR東日本社長と面談。この組み合わせはゴルフ仲間でもなさそうで読みにくい。南京占領78年追悼式典に習国家主席が欠席したということへの解釈は「改善傾向にある対日関係に配慮」。外は少し落ち着いてきたのかもしれない。むしろ内憂は税。
火曜日経の5面「検証・軽減税率」。結構なドキュメンタリータッチで面白かったが麻生財務相の言葉が残る。「菅は官房長官としての『のり』を越えた」。14日の講演では「1票の格差」のもとでの衆院解散は「否定されるものではない」とコメント。
来年夏の同時選については否定したものの煙がなければ否定する必要はなかろう。
興味深かったのはCOP21以降の動向。「エネルギー・環境イノベーション戦略」を策定の方向が打ち出された。この延長線上で2050年を見据えた革新的なエネルギー・環境技術開発を推進。高出力地熱発電、電気自動車用蓄電池などの工程表を作成するという。IoTや自動運転、ロボットなどが話題になっている政策にまた環境関連が加わることになる。これはいずれ相場の話題にもなると読みたいところ。
日本漢字能力検定協会が選定した2015年を表す漢字は「安」。安保の「安」や安倍の「安」、円安の「安」という解釈が聞かれる。しかし、株の世界で「安」は禁忌。直前の株安も効いたのだろうか。
日経平均株価は484円高の19049円と大幅反発。上昇幅は今年4番目の大きさとなった。トヨタ、野村が上昇。村田、シャープが下落。
17日(木):
FOMCは予定通りに約10年ぶりの利上げ通過。FF金利の誘導目標をゼロ〜0.25%→0.25〜0.5%に引き上げる。解釈は「米経済は2007〜09年の金融危機よる打撃を概ね克服した」。そして株価は上昇。
米利上げ→株安の論調は夏頃から既にようやく是正されていたが出口戦略株安警戒論の誤謬は証明された。米利上げ株安論を唱えていた市場関係者が唱えていた間違った相場観は何もなかったのごとく消えた。これは昨年の消費税の時も同様で、消費増税株高論はいつのまには消費増税株安論にすり替えられた。この巧妙な変身の仕方には頭下がる。
声明は「今後の経済動向について、FF金利の緩やかな上昇しか正当化しないような状況を想定している」。株高はイエレン議長の「緩やかなプロセスとなる公算が大きい」が奏功したのだろう。これは「市場に不安を抱かせないように配慮した」との解釈となっている。ただ2016年の金利見通しは中央値で1.375%。来年0.25%の利上げが4度実施されることを示唆。
市場関係者の解釈。
(1)金融政策は当面、依然として緩和的
(2)将来の政策行動は指標内容次第
(3)経済状況は、段階的利上げを正当化するような流れとなる見込み。
これで来年は1%の利上げの見込み。3月、6月、9月、12月のFOMCで0.25%ずつ利上げの公算。これが基本シナリオとなった。後だしジャンケンとはいえ日経スクランブルの「FOMC後経験則2つ」が面白い。
タイトルは「FOMC発表後のドリフト」。一つはFOMCが声明文を出す前の24時間は株が上がる安いというアノマリー。これは利上げを警戒し持ち高を減らした投資家が直前に買い戻すのが背景だという。
今年8回あったFOMC前の日経平均も前日比6勝2敗と勝率は高いという。もうひとつは「FOMC開催日から数えて奇数の週は株安で偶数の週は株高傾向」のアノマリー。そうなると、再来週の大納会の週は株高に期待できる週となる。「米利上げ後は円高・ドル安傾向」というのもある。
本来は金利差の上昇から円安・ドル高が定石なのだろう。しかし米利上げ後に米株を売った資金が日本株に向かい円高要因となるとの解釈。だから円安株高論ではなく円高株高論でなくては説明がつかないという場面を迎えるかもしれない。そもそも円安は日本の輸出企業は潤うかも知れないが、円安では海外から投資した日本株の上昇益は減る。これは誰が見ても正当な思考法。従来の小数意見がいつの間にか支配的相場観となるということでもある。何もなかったかの如く、相場観が変わる世界というのは不可解且つ面白い。
一夜明ければ昨日の理論は今日は通用しないというのは市場の特色だろうか。 FOMCでの利上げを材料とした饗宴の木曜日だった。ただ日経平均は一時19507円まで上昇したものの終値は19353円。週足の一目均衡表の雲上限(19438円)や26週線(19373円)を下回った格好。東証1部の売買代金は2兆7809億円。ソコソコ出来たところが救いだろうか。騰落レシオの92.3%もまだまだ低い水準ではある。
日経平均株価は303円高の19353円と続伸。トヨタ、さくらが上昇。TDK、コアガ下落。
18日(金):
今日から野村アセットの日経レバ(1570)の設定申し込みが再開される。運用停止から2か月での再開。設定停止でETF売り・先物買いの裁定取引が減少し進んだ割高感が是正されると言う声がある。また設定再開は2つの先物買いを復活させるという声もある。
一つは設定会社の先物買い。相場下落時に個人の押し目買いが入ると設定者は先物を買うので相場の下支えになる。そして裁定業者の「ETF買い・先物買い」ポジションの復活。多少小手先の期待感に過ぎないが、妖怪の設定復活に期待したいところ。後場寄り段階で日銀金融政策決定会合の結論は出ず。
しかし前場マイナスだった日経平均は後場プラス展開。12時50分過ぎに現状維持が発表されると日経平均は400円以上上昇。一時19800円台をつけた。「異次元緩和の保管措置」「ETF買い入れ枠拡大」などの見出しだけでも買い物となった。ただその後は急転直下売り物優勢の展開。
日経平均株価は366円安の18986円と大幅反落。日中値幅は882円と拡大した。
東証1部の売買高は29億8751万株、売買代金は3兆5971億円。武田薬、日機装が上昇。地所、アルプスが下落。
(2) 欧米動向
ミシガン大学消費者信頼感指数は91.8で前月の91.3から上昇した。
市場予想の92.0にはとどかなかったが消費者の主な家庭用品に対する購買意欲は2005年以来の強さ。
しかも12月の景気現況指数は107.0で予想の103.5を上回っている。
しかしこれは見えないふり。
米原油先物は一時1バレル=34ドル台に下落。
背景は国際エネルギー機関(IEA)が、年明けには供給過剰が悪化する可能性があるとした報告。
そして人民元は中国景気の減退を背景に4年半ぶりの安値。
とってつけたような材料だが、見えないふりではなくなった。
加えて「米国の利上げに対する警戒感も強まり、市場心理の重し」との解釈。
ついこの間までは「利上げ賛同」だったマスコミ論調の七変化なのだろうか。
ダウとデュポンの下落の影響も大きかったとも言われる。
しかしこれは表の材料。
矢面に立つ材料は概ね一過性のものであり、さしたる意味はないことも多い。
むしろ、表面上の売り材料の傍らにいるのが米規制当局と金融機関の長い戦い。
リーマンショック以降、材料の背景に隠れているこの規制とのバトルはあまり指摘されない。
週末は米証券取引委員会(SEC)が2つの規制案を発表した。
一つはファンドのデリバティブ(金融派生商品)利用を制限する規制案。
これはファンドに対し、デリバティブでの損失をカバーするための手元資金の保持を求める内容。
ファンドは、デリバティ運用を純資産の150%までに制限するとされる。
これに対する解釈は「新たな規制が導入されれば、多数の人気ETFが機能しなくなる可能性」。
SECの提案が通過した場合、ETFはレバレッジを低下させるか、ファンドの閉鎖、
または投資家に魅力的に映らない異なるストラクチャーへの変更を余儀なくされるとの解釈。
市場が暴れ抵抗する案に見えてならない。
SECのもうひとつの案は石油やガス、鉱業各社に外国政府への支払い内容の開示を義務付ける規制。
外国政府への納税や採掘権料など、資源の探査や採取などに関する各種料金の支払額の開示を義務付ける内容。
背景は「資源国の汚職と闘う上で有力な手段「との解釈。
エネルギー業界各社は、重要な財務情報を公にすると外国の競合相手を利することになりかねないとの考え。
金融も資源もがんじがらめを嫌う場所。
だから週末のNY株は資源セクター中心に下落したと考えた方が精神衛生上はよさそうな気がする。
材料の吟味や上昇下落の背景を探ることはもちろん重要な作業である。
しかし大切なことは他人の解釈や活字・映像の解釈を疑うこと。
マスコミ解釈は日々七変化。
金利の問題や景気の問題、あるいは政治情勢など有象無象のものが登場するのが相場。
しかしいつも底流にあるのは金融規制当局と金融機関の抵抗のバトルであるということ。
ここを押さえておくと風景は少し変わって見えることもある。
(3)アジア・新興国動向
中国人民銀行の2016年実質GDP見通しは6.8%。
これは想定の範囲内。
日本政府が来週発表予定の政府経済見通しは実質1.7%、名目3.1%。
背景は「景気が足踏み状態を抜け出し、賃上げの波及による個人消費の増加や
設備投資増で回復する」。
そして「17年4月に実施予定の消費増税前の駆け込み需要も見込む」。
ただ実現は不透明というのが解釈。
実際に名目3%成長が可能ならば2021年のGDP600兆円も可能になろう。
【展望】
スケジュールを見てみると・・・。
21日(月)コンビニ売上高、シカゴ連銀全米活動指数
22日(火)米7〜9月GDP確報値、中古住宅販売
23日(水)天皇誕生日で休場、耐久財受注、新築住宅販売件数
24日(木)クリスマスイブ
25日(金)失業率、家計調査、消費者物価指数、クリスマス
28日(月)鉱工業生産
29日(火)米ケースシラー住宅価格指数、CB消費者信頼感
30日(水)大納会、米中古住宅仮契約
31日(木)大みそかで休場、米シカゴ購買部協会景気指数
1日(金)元日、中国12月製造業PMI
頑張ってきた個人の逆張りの構図。
12月第2週の投資部門別株式売買動向で個人は1867億円の買い越し。
買い越し額は3カ月ぶりの高水準となった。
因みに個人は9月第5週から9週連続の売り越しだったが、先週の軟調で逆張りに動いた。
海外投資家は82億円の買い越し。
信託銀行は1751億円の買い越し。
そして事業法人が1022億円の買い越し、投信が923億円の買い越し。
主役は外国人ではなく国内勢の構図。
それでも外国人動向を気にしなければ相場展望が開けないところが情けない。
幕末以来のこの舶来信仰がなくなれば相場も自信を取り戻せるのだろうが・・・。
市場の話題はこのETFやREITの出口戦略。
日銀は資産運用業務をしているわけではなく未来永劫にETFを買ってくれる訳ではない。
先行き誰が日銀保有のETFを買ってくれるのだろうか。
かつて昭和証券恐慌の時には投信が売り続ける株を日銀が融資した共同証券が1896億円買ったという。
当時の日経平均(ダウ)は1200円攻防戦だった。
ただ買い入れは当時のダウ指数に寄与度の大きい大型株だけ。
不公平という世論を配慮し1964年1月に共同証券が買いを止めたあとは日本証券保有組合が登場。
証券界主導で1965年1月に設立され1969年1月に解散した。
この間に投信組み入れ株や二部株を中心に2327億円の株を買ったという。
株の売却益228億円を母体として資本市場振興財団が設立されたというのがおまけだった。
何かが起これば国家は市場を守るというのは古今東西変わらない鉄則ではある。
★以下は日経元旦朝刊の見出し。
ここに相場の流れのヒントがあったように思える。
06年「強い日本の復活」
07年「富が目覚め経済まわす」
08年「沈む国と通貨の物語」
09年「危機が生む未来」
10年「成長へ眠る力引き出す」=基本テーマは変らない
11年「先例なき時代に立つ」
12年「開かれる知、つながる力」の意味=「C世代を駆け抜ける」。
・・・その「C」はComputer、Connected、Community、Change、Create。
13年「5割経済圏:アジアに跳ぶ」
14年「空恐ろしさを豊かさに」
15年「変えるのはあなた」
年始恒例の連載テーマ「リアルの逆襲」
来年の元旦が待ち遠しくもある。
(兜町カタリスト 櫻井英明)
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